大阪公立大学 研究推進機構 放射線研究センター秋吉 優史 研究教育紹介サイトLast update 2017/10/21 |
セラミックス材料などに対する中性子欠陥挙動研究をライフワークとしています。 キーワードとしては、 「格子欠陥挙動解析、核融合炉材料、照射時熱物性評価、加速器による材料照射、放射線計測、陽電子消滅測定」 が挙げられます。 特に中性子照射材料の熱拡散率評価を最重要の研究テーマとしています。 日米科学技術協力事業核融合分野での原型炉プラズマ対向機器開発のための要素技術の工学的評価プロジェクト: PHENIX (PFC evaluation by tritium Plasma, HEat and Neutron Irradiation eXperiments) においても、照射時の熱物性評価の重要性が認識されていて、その評価が急がれています。 近年は特に、φ3x0.5mm の微小試験片(TEM disk サイズ)を用いた熱拡散率評価と、 陽電子寿命測定法の確立に力を入れています。 |
核融合炉ダイバータ材料の開発を進める上で、熱物性評価は極めて重要で、 特に照射後の室温での評価ではなく、照射時物性の評価が極めて重要であることを長年提唱してきました。 近年になり、日米核融合炉材料開発プロジェクト PHENIX においても照射時の熱物性評価の重要性が認識されてきています。 2015年2月には同プロジェクトの派遣事業に於いて Oak Ridge National Laboratory での3週間の実験を行っていて、 実験データの取得のみならず世界的な研究者との交流を深め、 また日米での放射線管理体制の違いについても知見を深めています。 2016年中にも派遣が計画されており、ダイバータ材料の熱負荷試験に関する研究を行う予定です。 |
研究上の重要なデバイスとして、京都大学原子炉実験所の電子線ライナックの利用を共同利用の枠組みで 10年以上行っていて、低放射化材料による照射ターゲットの開発、運用の実績があります。 近年基礎的な点欠陥挙動が改めて重要視されているため、材料の放射化の心配のない放射線研究センターの電子線ライナックを積極的に活用していく予定です。 また、2015年度まで文部科学省 国家課題対応型研究開発推進事業 原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブにおいて、 光電変換膜などの電子デバイスに対する放射線影響の研究を共同研究者として行っていて、Co-60 線源によるγ線照射を実施しています。 今後放射線研究センターの大線量 Co-60 照射装置群およびクリーンルームの施設を活用して、さらに研究を推進していく予定です。
簡単な研究紹介 PDF ファイル
講義資料など
初期の研究では、東京工業大学原子核工学専攻矢野研究室及び核燃料サイクル機構大洗照射材料試験室(いずれも当時の名称)に於いて、YBa2Cu4O8 高温超伝導体や α-Al2O3, AlN, β-Si3N4, β-SiC の4 種類の構造用セラミックスについて、中性子照射により導入された欠陥の微構造解析を行った。特に、β-Si3N4 中の欠陥構造について、原子配列の構造モデルを構築し、高分解能の透過電子顕微鏡像とシミュレーション結果との画像マッチング、結晶学的考察などから最も適切なモデルを明らかにした[主要論文1]。 微構造観察に加えて、上記の4 種類の構造用セラミックスに対するマクロの物性測定として、熱拡散率測定とスエリング評価を行った。常温での測定結果から照射条件の違いによる評価を行い、さらに等時アニールによる回復挙動の違いを評価することで欠陥導入形態の考察を行った[主要論文2]。 これまでの微構造観察と、物性測定結果を合わせて、異なるセラミックス材料間での挙動の違いがどこから生じるかを欠陥挙動の観点から整理し、転位ループ導入面の対称性の違いによる「パイルアップ構造」と「ナノパーティション構造」の違いが、今後の照射環境での材料選定の指針となることを独自に提唱した[主要論文3]。 2004年に京都大学に着任後は、プラズマやイオンビーム照射時挙動に関する研究にも着手した。京都大学原子核工学専攻高木郁二准教授(当時)の協力を得て、RF 水素プラズマのエネルギー分布状態を飛行時間法を用いて測定することで、ステンレス表面での水素反射挙動を評価した。また、アルミナやガラス試料に対するイオンビーム照射時の発光挙動が電子的な欠陥を含む欠陥構造に起因すると考え、ESR 測定により電子的な欠陥の評価を行い、照射条件による変化と照射後のアニールによる変化の挙動を速度論的に解析した。 セラミックスへの照射影響に関する研究は、照射時の熱伝導率を評価する研究を中心として発展させた。核融合炉ダイバータ材料の開発を進める上で、熱物性評価は極めて重要であるが、従来の照射後の熱物性評価では不十分であり、照射時の熱物性評価を行うことが必要であることを申請者は提唱している。日米科学技術協力事業核融合分野研究計画の核融合炉材料開発プロジェクトPHENIX に立ち上げ当初から参加しており、申請者の提唱により日米の主要な照射欠陥研究者の間で照射時の熱物性評価の重要性が認識されてきている。しかしながら、照射時熱拡散率の評価に成功した研究はこれまで存在しなかった。 セラミックス中ではフォノンによる熱伝導が主であり、欠陥の導入により大きく熱拡散率が低下することが知られている。フォノン伝導による熱拡散率aは温度T と共に α= k/Tn に従って低下するが、k, n は照射条件によって変化するため、室温での測定だけでは照射温度 Tirr における熱拡散率 αirr = k/Tnirr を求めることは出来ない。このため、液体窒素温度程度の低温から室温付近まででの測定を行い、その温度依存性から照射温度における熱拡散率を評価した。なお、低温での測定を行ったのは試料中の欠陥がアニールされて回復するのを防ぐためであるが、高温での測定を一部の試料に対して行っており、低温からの外挿による評価の妥当性が確認された。 さらに、照射時熱拡散率評価を行うにあたっては、照射時のみに存在する transient な欠陥の存在を考慮する必要がある。照射中は常に欠陥の生成と、再結合による消滅が繰り返されているが、この transient な欠陥は、照射後速やかに消滅し、照射後の試料中にはほとんど含まれていないため、照射中の方が照射後よりも欠陥導入密度が高いと考える事が出来る。しかしながら中性子照射中の熱拡散率の測定は非常に困難であるため、イオンビームを照射中のその場測定により transient な欠陥導入状態を評価した上で、照射後の熱拡散率測定から照射時の熱物性を評価した。イオンビーム照射ではブラッグピーク付近の極めて狭い領域に欠陥が集中しており、バルクな熱物性評価は困難であるため、熱拡散率同様に空孔を鋭敏に検出することが出来る陽電子消滅法の研究を行った。 陽電子消滅測定は、京都大学原子核工学専攻土田秀次准教授、同原子炉実験所義家敏正教授の協力を得て行った。まず一般に行われている γ-γ 同時計測により照射後試料の陽電子寿命測定を行った後に、イオンビーム照射時の陽電子寿命測定に必要な β-γ 同時計測の測定系を構築した。照射後試料の熱拡散率と陽電子寿命の相関と、イオンビーム照射前、照射中、照射後の陽電子寿命測定から、transient な欠陥による影響は照射後に存在する欠陥による影響に比べて無視できるほど少ないことが明らかとなり、それまでに行ってきた照射時熱拡散率の評価の信頼性を高めることが出来た[主要論文4]。 現在は、照射温度をコントロールされた照射試験環境と、実際の照射環境の違いについて検討している。ヒートシンク温度と熱流速が一定である実際の照射環境下では、欠陥導入に伴い熱拡散率が低下すると試料温度が上昇するが、試料温度が上がると欠陥密度が減少して熱拡散率が回復するため、試料温度が一義的に求まらない。このため、欠陥導入速度と、欠陥の消滅・成長速度のバランスで照射時の欠陥濃度を求めるという、速度論的解析から試料温度を評価する必要がある。しかし、中性子照射後試料中の欠陥挙動は複雑で、点欠陥、転位ループ、ボイドなど様々な欠陥を考慮する必要がある。このため、30MeV 電子線ライナックを用いて点欠陥のみを均一に導入した試料を作成し、その欠陥挙動を熱拡散率と陽電子消滅寿命測定から評価する研究を行っている[主要論文5]。 陽電子消滅測定を行う上で放射線計測に習熟しており、Ge 半導体検出器を用いた放射性核種の同定と定量を学生実験などで行ってきたが、京都大学原子核工学専攻佐々木隆之准教授との共同研究に於いて、バングラデシュで産する砂に含まれるトリウム系列、ウラン系列の核種の定量を行い、産地・試料の違いによるそれぞれの核種の含有量変化を評価した。
[1]
M. Akiyoshi, T. Yano and M.L. Jenkins, [2]
M. Akiyoshi and T. Yano, [3]
M. Akiyoshi, N. Akasaka, Y. Tachi and T. Yano, [4]
M. Akiyoshi, H. Tsuchida and T. Yano, [5]
M. Akiyoshi, H. Tsuchida, I. Takagi, T. Yoshiie, Xu Qiu, K. Sato and T. Yano, |
問い合わせ:e-mail: akiyoshi-masafumi [at] omu.ac.jp ([at] を@に置き換えて下さい)
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